11/4「アルヌルフ・フォン・アルニム教授によるベートーヴェン後期ソナタ講座」、5時間に及んでもまだ時間が足りないと思う濃い講座でした。
アルニム先生には留学中に何度か短期コースでレッスンを受け、日本に帰国後も先生の来日時にはレッスンしていただいていました。今回はOp.109の演奏担当ということで、喜びと緊張とでこの日を迎えました。
この後期ソナタ3曲は、ピアノを弾く多くの人が魅了される作品群と思います。先生もおっしゃっていましたが、Op.106ハンマークラヴィーアでソナタの頂点を極めたベートーヴェンが、Op.109、110、111、まるで3曲でひとつのように私たちに提示してくれた世界。一段階ずつ、精神的な高みを登っていくソナタ群です。
講座の中で、先生が1973年にケンプのベートーヴェン講座を受けたエピソードをいくつもご紹介くださいました。「ベートーヴェンの理解は、楽譜通り弾けるまでで10%、後の90%をどう理解し演奏するか」の言葉は、この講座の主題となり、その90%を探る手がかりをアルニム先生があらゆる方向から示唆してくださいました。
アルニム先生の音楽観は、とても懐が深くて自然な呼吸の中で広がっていきます。それが天にまで繋がっていくような空間を、弾きながら示してくださる。77歳とは思えない(77歳だからこそ?!)先生の艶やかで力強いメッセージに、勇気づけられました。
若い頃の私自身、そして今一緒に勉強している若い生徒たちも、音楽を追求する喜びに加え、コンクールや学校の試験など目前の課題に必死で「これだけ頑張っていることへの証が欲しい」と、悩みも多い修行時代を通ります。でも、「永遠とは何か」「痛みのない解放」「神への感謝と愛」「崇高な魂」といったベートーヴェンの音楽に込められた精神を紐解いていく時間を過ごしていると、そういうことが飛んでしまうというか…「音楽が語る精神を生きる」奥深さに触れて、心が震えるような瞬間が何度もありました。
日々感謝することは山ほどあり、幸せと感じる瞬間も多々あって、それでもふっと寂しくなったり、虚しくなったり、不安に駆られたり… 人は埋まらない「真理」ともいうべき一片を、一生をかけて求めていくのかもしれない。そんな言葉が頭を巡っていました。
今回の講座でも「調性」に関するイメージの話題が多くありました。アルニム先生(森永美穂子先生訳・編集)の「24の感情的な風景を巡る散策<第1部長調編><第2部短調編>」(2冊)、ぜひお勧めします。
このような機会をくださいました森永美穂子先生に、心より感謝申し上げます。また通訳の子安先生、同じく演奏担当でご一緒した田村先生、ありがとうございました。