前回の音高受験で書いた3つのポイントは、③が高3になるだけで継続されます。少しづつ、職業ピアニストへの入口が見え始める頃。ここでは更に、5つのポイントを挙げてみました。
<音大の先生の耳とは>
音大の先生方が審査する入学試験。楽譜の読み込み・発想・響きの質など、高度なものが求められます。
コンクールで、審査結果と聴衆賞で評価が分かれる時がありますが、これは楽譜・曲の背景・楽器の扱いなど熟知している専門家と、理屈抜きにその演奏が感動できるかどうかが主になる聴衆との、観点の違いとも言えます。もちろん、どちらも唸らせる演奏がBESTです。
音大入試の際には、前述の専門家の視点が重要になります。受験生のレパートリーはレッスンし尽くし譜面を熟知されている先生方ばかり。例えば「P」と書いてあるところを素通りしているようでは、当たり前ですが通用しません。「楽譜を立ち上げる」本質的なところにアプローチしているかどうか、よりアカデミックな要素がポイントになります。
<複雑な感情表現へ>
ジュニアの頃は、「明るい・楽しい」「暗い・悲しい」といった、わかりやすい表現方法の曲が多かったところから、「愛」「哲学」「痛み」「官能」「文学」など、大人な表現が要求されるレパートリーも増えてきます。想像力を働かせる知識や、人間としての成長も必要になってきます。
<体の変化>
中学~高校は体がグッと大きくなる時期。今までの(ジュニアの)弾き方を見直し、調整していきます。
<柱になるレパートリー>
バッハ平均律、ベートーヴェンソナタ、ショパンエチュード。受験する大学によって違いはありますが、主にここが柱になります。できれば高3夏までに入試プログラムの2倍以上を勉強し、その上で選曲を絞っていきたいところです。入試曲が高校3年間のレパートリーの寄せ集めでは心もとないですし、音大に入ってからも大変になります。質・量共に広げたいです。
<音高or普通校>
音高でのメリットはこれまでにも書いてきました。ただ必要以上に情報が入り、視点が狭くなる傾向もあるので気をつけたい点です。学校の友人たちが勉学で大学を目指す中、孤独に音楽の勉強をする普通高校からの志望者は、専門知識を学校外で開拓していかなくてはいけない大変さはありますが、返ってそれが「熱意」へ繋がっていく利点も感じます。
今日まで、4回に渡って書いてみました。音高音大受験は、通過点に過ぎません。その先の方が長く、勉強の継続こそが肝です。指導していると、音楽の才能も大事かもしれませんが、「熱意」「継続」の才能の方が、その人を輝かせていくようにも思います。
私は師匠たちから、クラシック音楽という「光の玉」を受け取ってきたイメージがあります。その美しい玉を次世代へ渡し、リレーしていくことが役目のひとつと思っています。生徒たちが、時には辛く厳しい局面からも学び、蛹が蝶になるような成長を見せてくれる瞬間は、鳥肌が立つほど感激します。
最後に、中1から私のところへ来て藝大に合格した元生徒の、中3~高3の4年間で勉強したレパートリーを紹介します。ご参考になれば幸いです。
バッハ:平均律、パルティータ第1番(抜粋)、半音階的幻想曲とフーガ
ベートーヴェン:ソナタ第7番、12番、18番(すべて全楽章)
ショパン:バラード第1番、スケルツォ第4番
ショパン:エチュードOp.10-1、4、5、8、10 Op.25-1、3、4
シューマン:幻想曲より第1楽章
リスト:バラード第2番
ドビュッシー:映像第2集(全曲)、プレリュード第2集より「オンディーヌ」「花火」
ラヴェル:組曲「クープランの墓」(全曲)
プロコフィエフ:ソナタ第1番
スクリャービン:練習曲Op.8-5 ホ長調
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番より第1楽章